木蔭
2026年03月25日号(3面に掲載)
聞いて書く/井上 優里
音声をリアルタイムで文字に起こし、要約まで行うAIスピーカーが話題だが、それを見ると学生時代の要約筆記のアルバイトを思い出す。
要約筆記は、聴覚が不自由な方に、会話や講演内容をリアルタイムで要約して伝え、意思疎通や理解のお手伝いをする技術だ。通っていた大学で学生アルバイトの募集があり、私は半年間だけ参加した。
支援する学生1人に対して、2人の学生アルバイトが一緒に講義に入り要約筆記を行う。今ではパソコンを使ったり、音声変換器を使ったりもしているようだが、10数年前に私が参加していたころは、手書きが主だった。人の集中力には限界があり、レポート用紙2枚ごとで交代できるように2人体制だった。講義中に救急車のサイレンが鳴り、他の学生がざわざわとすれば、その状況も簡潔に伝える必要がある。講義内容は自分が知っている内容でないことも多く、私自身は第二外国語でフランス語を選択していたが、同じヨーロッパ圏だからという理由でドイツ語の講義の担当になったと聞いた時は思わず笑ってしまったことを覚えている。
耳で聞き、頭で要約して文字にしながら、次の内容を聞き取ることはやはり難しかった。授業に置いていかれないようにスピーディーに書かなくてはいけないが、速さを気にし過ぎて書いている内容が伴わないようでは、私たちが書いたレポート用紙を使って勉強する学生本人は困ってしまう。大学側が「ボランティア」でなく「アルバイト」として募集をかけ、丸2日の講義・実技の受講が必須条件だった理由がすぐに理解できた。
技術が進んで便利なツールがたくさん生まれているが、あの時に学んだ「まず聞き、頭の中で組み立てながら文字にする」ことは今も役に立っている。どれだけ生活が便利になってもあの時の経験を忘れずにいたい。
(かごしま電工・営業企画室主任)

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