水の作文コンクール

2025年10月02日更新
水の作文コンクール

国土交通省等が主催する第47回全日本中学生水の作文コンクールで、宮崎県の都城泉ヶ丘高等学校附属中学校に通う大峯果林さんが内閣総理大臣賞を受賞した。

 本県曽於市の水道課に勤務する父の姿から感じた「水のために働く人の努力と責任」を記した作文が、全国から応募があった7482点の最高賞に輝いた。

 このほか本県では、志學館学園志學館中等部2年生の宮脇愛さんが入選した。



 栓をひねると水が出る。朝、顔を洗う。渇いたのどを潤す水をコップに注ぐ。料理をする。洗濯をする。お風呂に入る。生活のどの瞬間にも水がある。その存在は自然で、意識することはほとんどない。水があるから生活が回るということを忘れてしまっている。けれど、私は気が付いた。この当たり前が、誰かの努力によって支えられているということに。気付いて以来、水の流れる音が少し違って聞こえるようになった。

 小学校四年生の夏の終わりのこと。大きな台風十一号が九州に接近し家の中にこもったが、風と雨の音が大きく響いて、不安でいっぱいだった。そんな中、父は黙って作業着に着替え、懐中電灯を手に外へ出て行った。

 私の父は、市役所の水道課に勤めている。人々が安心して水を使えるように、見えないところで水を守っている。水が止まれば、昼夜関係なく現場に向かう。休日に家族で出かけているときでも、水に関わる一大事を察知すると急いで引き返して現場に向かうこともある。台風の接近はまさに一大事だ。父が嵐の中へ出て行ってしまうのが不安でたまらなかったけれど、ぴんと背筋の伸びた父の背中を見たら、何も言うことはできなかった。

 翌日、帰宅した父は疲れた顔をしていたが、私の目を見ながら話をしてくれた。台風の夜、病院のある地域で断水が発生したという。

「病院の断水を復旧できて本当に良かった。想像して。病院が断水になると医療に使う水が足りなくなる。つまりそれは……。」

「命に関わる……。」思わず言葉が出てはっとした。水は生活に必要なだけではなく、人の命に欠かせない存在なのだ。水がなければ、治療も消毒もできない。薬を飲むこともできない。手も洗えずうがいもできず、感染症のリスクも高くなる。水がないことで、守れるはずの命が守れなくなる。思わず父の顔を見た。父の目はまっすぐ前を向いていた。そして、以前父が話していたことを思い出した。

「日本では、水を使えることが当たり前になりすぎているせいか、この仕事をしていて感謝されることはあまりない。水が使えなくなって初めて水の大切さに気付いて感謝する。」その言葉の意味がようやく理解できた。

 私には水道管を直すことはできないけれど、水を無駄にせず、感謝して使うことはできる。水の一滴一滴が、水のために働く人たちの技術と努力、そして強い責任感によって届けられていると知った今、小さな行動にも意味があると感じている。学校では「水は限りある資源」と習った。でも私は、水はそれだけでは語れないということに気付いた。水そのものだけではなく、水を支える人たちの知識や技術、経験、使命感をもって働く姿もまた、私たちの暮らしと命を守る大切な資源だ。例えば「台風」という災害があったとしても、水を支える人の「水を止めない」という想いが、水をつなぎ、安心を生み出している。自然と感謝と尊敬の気持ちが私の心に広がっていった。水の波紋が広がるように。

 そして、改めて考える。今、地球では気候変動が進み、水不足や災害が増えている。水を守る仕事の価値は、これから更に大きくなっていく。どんなに技術が進化しても、それを動かすのは人間の想いと未来を見つめる使命感だ。父は今日も人々の暮らしと命のために働いている。決して目立つ仕事ではないが、未来を支える確かな力になっている。私もいつか、目立たなくても誰かを支える人になりたいと思う。今、私は水を大切に使い続ける気持ちは誰にも負けない。小さなことでも自分にできることを見つけて行動したい。たった一滴の水でも、命の水になれるのだから。

 ふと顔を上げると、母が台所で流す水の音が心地よく私の耳に響いてきた。

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