鹿児島建設新聞

西創設工業 西  隆 氏

Profile

 古来、洋の東西を問わず、屋根葺きに用いられてきた代表的建材に瓦がある。日本書紀によると、西暦588年、仏教とともに大陸より伝来。その壮大で深淵な瓦の世界に偶然はまり、生業としてきた男の話だ。「瓦道」に生きると決めると人が集い、新たな使命を帯びたという。瓦に導かれ、今変貌のときを迎えている。

 様々な理由で家族の世話や家事を担う「ヤングケアラー」の存在について、中学生の17人に1人、という調査結果をこの4月、国が発表した。誰にも気づかれず、進学も就職もままならない現実があると指摘される。22年前にもそんな事情から、中学を卒業後、ホテルで皿洗いを始めた少年がいた。
 「とにかく家計を助ける必要があった」。そして、程なくイメージに近い仕事を見つけた。「作品を作っていく感覚でした。何十年も残るじゃないですか」。1400年前の屋根材が、そのまま現代も生きている「瓦」との出会いだった。

瓦

 「やり始めると、みるみるはまっていった」。そして10年の修行の後、独立。2012(平成24)年、28歳で「西瓦創設」を創業、4年後には法人化を果たす。この間、県瓦業協同組合に加入し「1級かわらぶき技能士」の資格を取得。併せて、県知事認定の職業訓練指導員にもなった。
 家一軒ひとりでできる段階になり、「挑戦したい―という気持ちでした。やってやるぞ、という」。自ら「瓦道(ガドウ)」と称する瓦業入職のきっかけは「瓦が好きになり、瓦葺きの技を自分のものにしよう、と思っただけですね」と振り返る。
 ただ、独立が円満だったわけではなかった。世に出る機会に応えてくれた親方への感謝は持ちつつも、職人世界の気風に対する疑問や、技とその対価の面から芽生えた「経営」への関心。「〝親方を裏切って〟という言われ方もされた。でも、そういう人たちが守ってくれるわけでもない」。
 気持ちを前面に努力すると、仲間が集った。その輪はさらに広がり、仲間が増えた。「壮大で深淵な世界がある」と、瓦に魅入られ「瓦道」に生きると誓う。それでも、「思いだけでは、食べていけない。現実は簡単じゃない」と、3年前に決意し経営の多角化に挑戦。17(平成29)年に屋根工事で建設業許可を取得し、以来、建設業許可29業種のうち建築をはじめ、土木や舗装、電気、管など10業種の許可を取得、昨年、令和2年に現在の社名に変更した。

会社外観

 経営のベースは瓦。それも、粘土を焼いて作った陶器瓦による屋根工事が主体だ。材料は主に、三州(愛知県)、石州(島根県石見地方)、淡路(兵庫県)の三大産地から商社を通じて仕入れる。日本の文化も変わりつつあり、「今や瓦業は絶滅危惧種」。それだけに「社員を守り、瓦を守り残していきたい」。
 28歳で美喜子夫人と友人の3人で起業し、現在18人を率い今年8月、37歳になった。公共工事も昨年秋から、指名等を受け11件に参加。このうち5件を受注し、落札実績は1700万円に迫る。月に1度の全体ミーティングがチームワークを支え、毎月の課題を見出しチャレンジする。今、瓦葺専業から総合建設業へと、脱皮を図る最中だ。

現場写真

 「ドはまりした」あの時から、「一生勉強」との想いに揺るぎはない。「地域から仕事をもらう以上、地域に貢献したい」。公共工事に従事する先輩企業の姿を見て「素直にそれを真似したい」。かつて、技を盗んだ職人魂は今も生きる。そして「従業員が定年で会社を去るとき〝生まれ変わってもまたこの会社に勤めたい〟と思えるよう努力したい」。
 家族は、出身地で事務所も構える指宿市に、長男、次男に長女、次女と続く子ども4人と夫人の6人暮らし。休日は、中一の長男が所属する硬式野球クラブの応援や、育成会長を務める下3人のソフトボールチームの指導に当たる。

更新日:2021年11月

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