鹿児島建設新聞

鹿児島防水 廻 俊維

Profile

県内高校中退。土工、鳶工を経て父親が経営する防水工事専門会社に10年以上勤務。防水工事の基礎を勉強。平成26年7月にトイレもない中古のプレハブ倉庫で会社を創業。一貫して自分の信念を曲げない「ぶれない経営」を貫いている。「建築物は雨漏りをすると、当たり前の生活が出来ないだけでなく、建築物の耐力そのものも失われる。技術と知識を駆使してプロの立場から建築物を守り続けていく」と、この業界に身を置く覚悟を決めた。1級防水施工技能士などの資格所有。趣味はゴルフ。好きな言葉は誠心誠意。妻と6歳の長男の3人家族。鹿児島市出身の31歳。

 前職は、父が30歳の時に興した会社で40年の歴史がある。その会社に入社、現場と営業の基礎を学んだが仕事の最終決断をしなければならない局面でことごとく衝突した。「とにかく親父はワンマンな所もあったが厳しい昭和の時代を生き抜いてきた。そんな父を反面教師にしながら、独自でまっさらな状態で会社を立ち上げたい」と、6年前に同社を退社、独立・開業した。

 「でも気持ちの面では、親父の教えや理念を引き継いでいる自分がそこにいる。なににつけても支えにしてきた。心が折れそうな時も、精神的支柱として自分を支えてくれた」と、振り返る。経営理念は「信用と信頼」。モットーは「迅速・丁寧・確かな技術」。行動する中で自然と、この理念とモットーを繰り返して呟くようになっていた。「無我夢中だった。信頼を得るためには行動で示し、実績を積み上げるしかなかった。だからがむしゃらに働いた」と、プロの防水工は、日焼けした腕と爪の間に入った防水材を誇らしげにさする。

社内風景

 信用も実績もないスタート。「安い価格でないと仕事が取れない。でも雇った社員を抱え食べさせなければならない。今さら泣き言は言えない」と、自問自答し悩みぬいた。まずは、どんな小さい仕事でも注文をもらうことが最低条件。建設新聞を見ては営業の電話をかけまくり、毎日お客様の元へ出向いて「仕事をさせてください」と、営業に駆けずり回った。創業当初は現場と営業の掛け持ちで寝ずに働いていた。
だが、がむしゃらに働いてもすぐに結果が出るわけではなく、常に不安との闘いだった。そんな時、1人の同業者の専務が手を差し伸べてくれた。専務とは昔からの友達で「廻さん。一人で悩みを抱えずに話してみて」と言ってくれた。私は弱音を吐くことは悪だと思っており、誰にも相談したことはなかったが、専務の優しさに心を打たれ、悩みを打ち明けた。そうしたら社長が協力してくれて危機を乗り越えられた。「その晩は涙が止まらなかった。この時の恩は忘れることはない」と、当時を振り返る。
ある日、営業先で「漏水が止まらないんだよ。何とかして」と、相談を受けた。「防水工事は、ここを塞げば絶対止まります」と、100%の確約はできないものだが、プロとしてなんとしても止めないとお客様の信用は得られない。知恵を絞り、調べ、知る限りの知識、工法、ノウハウを駆使して見事に漏水を防いだ。その時誠意を尽くしてやり抜く提案に活路を見出した。防水のプロとして、30分、1時間、時には2時間。粘って必死に提案することで、自信がつき仕事も評価されるようになり、曲がりなりにも仕事の依頼先が増え、口コミや紹介もあり、3年目から注文が来るようになった。

施工実績1

 それ以来、自分に言い聞かせている言葉がある。「自分に降りかかる難題から決して逃げてはいけない。お客様の大切なものを共に守り続ける、というプロ意識とプライド」。 一般的に防水工事業といっても約28業種あり仕事の内容は幅広い。対象は一般住宅からマンション、オフィスビル、店舗、工場、事務所、病院など。ニーズに応じてウレタン塗膜防水、塩化ビニル系シート防水、シーリング防水など多くの手法を用いて建物の構造、環境、用途、コスト面の適性を見極め、雨漏りや漏水を防ぐ仕事。作業員の腕のよしあし、仕上げ具合で性能が大きく変わるケースもあるが、入念な自主検査や現場管理等で品質を高め、バランスを取る。

 建物がある限り需要が生まれる仕事だが多忙を極めライバルも多い。県内で知事許可を持つ業者は約40社以上、一人親方と呼ばれる業者は約100社以上にのぼる。危険、汚い、きついの3Kの代表格と呼ばれることも少なくなく、人手不足が最大の課題。一人前になるには10年かかると言われ、どちらかと言うと、若者には敬遠されがち。しかし、プロとしての腕が求められ、やり甲斐があり、社会に必要とされる仕事。

講習会風景

 目指す企業像は、仕事に徹するプロフェッショナル集団。だから信用・信頼、迅速・丁寧で確かな技術は、社員共有の理念でもある。「経済は人、モノ、カネのトライアングル。どれが欠けても成り立たない。そのベースには、融和が求められる人柄、高い技術力、ニーズに応じた適正な材料が必要」と、経営の基本を語る。「防水は建築と化学分野のクロス産業と言われ、これからドンドン進化する。技術の研磨、技能工の待遇改善、若年入職者の確保・教育、社会保険への加入促進など業界として克服しなければならない課題が山積している。現場の正しい診断、計画、施工を念頭に入れ、質の高い防水工事を極めたい。そして、最終的には下請けメインからエンド企業へのアプローチを目指したい」と、若手経営者は先を見据える。

更新日:2019年8月

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