〜組織再編制度活用編〜

再編の切り札

~町の建設屋、逆転への道~

キャラクター紹介

籠島 太
籠島 太
籠島建設・社長
創業40年、土木と建築を営む
相良
相良 健一
顧問税理士・幼なじみ
組織再編制度に詳しい案内人
和泉・桐島・伊佐
和泉・伊佐・桐島
専門工事業の仲間
(管工事・内装工事・電気工事)
ACT
1
序章
じり貧からの一本の電話
じり貧からの一本の電話
第1話 ため息の社長室

「はあ……」籠島建設の社長・籠島太は、夕暮れの事務所でどっかりと椅子に沈み込んだ。デスクに積み上がった請求書。減り続ける受注。赤字の支店報告書。

創業40年。親父から受け継いだこの会社を、なんとか守ってきた。でも最近は、仕事が取れない。大手に食われ、同業者との値下げ競争に疲れ果てていた。

籠島の心の声

(このままじゃ、じり貧だ)

そんな夜、一本の電話が鳴った。

相良(電話)

「籠島さん?俺、相良だよ。ちょっと飲まない?」

幼なじみで顧問税理士の相良だった。

第2話 居酒屋の作戦会議

ビールを一口あおった相良が、おもむろに切り出した。

相良

「籠島、お前知ってるか?『組織再編制度』ってやつ」

籠島

「なにそれ、むずかしそう」

「まあ聞けって。簡単に言うと——会社同士をくっつけたり分けたり、現金なしでできる魔法みたいな制度が今あるんだよ」

「現金なし?そんなうまい話が?」

相良はニヤリと笑い、ノートを取り出した。

相良

「バブル崩壊後にな、国が欧米式の経営に舵を切ったんだ。そのときに作られた新しい法律でね、うまく使えばお前の会社、まだまだ戦えるぞ」

籠島は身を乗り出した。

第3話 仲間との再会

翌週。籠島は相良に連れられ、旧知の3人と顔を合わせた。

和泉(管工事・和泉設備)、桐島(電気工事・桐島電工)、伊佐(内装工事・伊佐インテリア)。

籠島

「みんな最近どうだ?」

全員がため息をついた。「下請けばっかで、元請けが取れない」「事務の人件費がきつくてね」「うちなんか一人でなんでもやってるよ……」

相良が立ち上がり、ホワイトボードにさらさらと図を描いた。

相良

「じゃあ聞くけど、4社でくっつく気はあるか?」

和泉

「合併か?それは嫌だ、俺の会社は俺の会社だ」

相良が書いたのは——持株会社「D社」という文字だった。

相良

「違う違う。それぞれの会社はそのまま残す。ただ、上に『屋根』を作るイメージだ」

屋根をかけ、支店を交換する
ACT
2
再編の一手
屋根をかけ、支店を交換する
第4話 株式移転という「屋根」
相良

「株式移転制度、ってのを使う」

「和泉さん・桐島さん・伊佐さん・籠島、あなたたち4人がそれぞれ持ってる自分の会社の株を、新しく作るD社の株と交換するんです。そうするとD社が4社全部を傘下に持つことになる」

「で、俺たちは?」

「D社の株主になる。つまりオーナーとしての立場は変わらない。でも……」

相良がニッと笑った。

相良

「D社を窓口にすれば、管工事も電気も内装も全部まとめてリニューアル工事として元請けで取れる。材料の一括購入で値段交渉も強くなる。事務部門を統合すれば経費も下がる」

しばらく沈黙が続いた。最初に口を開いたのは伊佐だった。

伊佐

「……それ、ありじゃないか?」

第5話 籠島の決断

4社の話し合いはまとまりかけた。でも籠島には、もう一つ悩みがあった。乙市の支店だ。

籠島建設は甲市が本拠地なのに、無理して乙市にも支店を出していた。ところが乙市の支店はずっと赤字。撤退したくても、長年の取引先を捨てるのが忍びなかった。

籠島

「そういえば、乙市が地盤の北川建設の北川さん、甲市に支店出して苦労してるって言ってたな……」

相良に話すと、またホワイトボードが動いた。

相良

「会社分割だ」

第6話 ミラーの交換
相良

「籠島の乙市支店を、北川建設に丸ごと渡す。代わりに北川の甲市支店を籠島が受け取る」

籠島

「渡すって……社員も?取引先との契約も?」

「全部まとめてだよ。それが会社分割のミソでね、一個一個バラバラに手続きしなくていい。債権も債務も社員の雇用契約も、ぜんぶひとかたまりで移せる」

籠島は腕を組んだ。(乙市の社員には北川さんのところで続けてもらえる。取引先との関係も途切れない……)

籠島

「北川さんにとってもメリットはあるのか?」

「もちろん。北川さんは甲市の赤字支店を手放して、乙市に集中できる。お互い地元のシェアが上がって、無駄な経費が消える」

籠島

「ウィンウィンじゃないか!」

棲み分け、そして新しい朝
ACT
3
完成
棲み分け、そして新しい朝
第7話 ライバルとの共存

問題はもう一つあった。籠島建設は土木と建築、両方やっていた。でも本音を言えば、得意なのは土木だけだ。建築部門は、正直なところ中途半端だった。

相良

「そこでだ。同じ悩みを持つ会社、心当たりないか?」

籠島は考えた。「……東建設の東さん。あいつ、建築は強いけど土木が弱いってぼやいてたな」

相良

「ビンゴ。籠島が建築部門を東建設に渡して、東建設が土木部門を籠島に渡す。これも会社分割だ」

籠島

「でも東さん、一応ライバルだぞ?」

相良は笑った。「ライバルだからこそ、弱いところを補い合う意味がある。籠島は土木一本に集中して技術力を上げる。経審の点数も上がる。入札で有利になる。地域一番の土木屋を目指せる」

籠島は静かにうなずいた。(争うより、棲み分ける。それが生き残りってことか……)

第8話 最後のピース

それでもまだ、籠島には宿題が残っていた。以前から目をつけていた橋本電気工事。高い技術を持つ優良業者だが、資金繰りが苦しそうだ。傘下に入れられれば、受注の幅が一気に広がる。

でも籠島建設も今は余裕がない。億単位の現金など、どこにも用意できない。

籠島

「相良、これは無理か?」

相良

「株式交換だ」

「また株の話か……」

「橋本電気の株主と籠島が株を交換する。橋本の株主は籠島建設の株主になる。そして橋本電気は籠島建設の100%子会社になる」

「でも現金は?」「いらない。籠島建設の株を新たに発行して渡すだけだ」

籠島

「……つまり、お金を使わずに会社を手に入れられる?」

「そう。株券が現金の代わりになる時代なんだよ」

最終話 新しい朝

数か月後。籠島建設は様変わりしていた。持株会社D社のもとで和泉・桐島・伊佐と組み、「D建設グループ」として元請け工事を次々と受注。甲市の支店は地域シェアを伸ばし、土木部門は経審の点数を大幅に上げた。そして子会社となった橋本電気との連携で、新しい仕事の引き合いが増えていた。

ある朝、籠島は晴れやかな顔で事務所に入ってきた。「おはようございます!」社員たちが声をかけてくる。

籠島の心の声

(この会社を守れた。いや、守っただけじゃない——変えられた)

窓の外には、グループ各社の工事現場が広がっていた。相良から一通のメッセージが届いた。

相良

「どうだ、籠島。制度は道具だ。使う人間次第で、会社は変われる」

籠島は小さく笑い、スマホをポケットにしまった。さあ、今日も仕事だ。

<次回:再編の切り札【後編】>

当物語は過去の記事「未来への地図」① (2001/12/01 2面)「未来への地図」② (2001/12/08 2面)
(株)財務研代表取締役 池田剛氏を元に作成しております。
過去記事も合わせてご覧ください。

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